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東京地方裁判所 平成10年(モ)4025号 決定 1998年6月30日

申立人

右訴訟代理人弁護士

藤川元

近藤義徳

相手方

株式会社住友銀行

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

海老原元彦

廣田寿徳

竹内洋

馬瀬隆之

主文

本件申立てを却下する。

理由

一  本件申立ての要旨

申立人の本件申立ての趣旨及び理由の要旨は、別紙文書目録記載の各文書(以下「本件各文書」という。)は、民事訴訟法二二〇条三号後段所定の法律関係文書に該当し、仮にそうでないとしても同条四号イ、ロ及びハのいずれにも該当しない文書であるから、相手方は本件各文書を当裁判所に提出せよとの裁判を求めるというものである。

これに対し、相手方は、別紙文書目録記載一の文書(以下「文書一」といい、同記載二及び三の文書についてもこの例による。)は現存しない、文書二は存在しない、文書三は同条三号後段に該当せず、かつ、同条四号ハに該当するから、いずれも提出義務を負わないと主張する。

二  当裁判所の判断

1  文書一について

一件記録によれば、相手方は、文書取扱規定をもって日誌の保存期間を三年間と定めていること、平成二年の業務日誌である文書一はすでに廃棄されていることが認められる。

申立人は、同人の子であるBが、銀行においては業務日誌は通常一〇年程度保存するということ及び相手方は各支店に保管中の変額保険に関する資料の全部を本部に引き上げたということを聞いている旨主張するが、右主張事実を裏付ける資料はなく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。文書一に関する本件申立ては理由がない。

2  文書二について

文書二については、相手方はその存在を争っているところ、申立人が主張する「顧客元帳ないし取経」が存在し、相手方がこれを所持していることを認めるに足りる証拠はない。文書二に関する本件申立ては理由がない。

なお、申立人が「顧客元帳」と表示する文書が貸付金元帳を指すのであれば、申立人の貸付金元帳は申立人と相手方との間の法律関係それ自体を記載した文書に該当し、申立人の子であるB及び同人が代表者を務め、申立人所有の不動産の管理業務を行っている株式会社栄和の貸付金元帳は、本件に顕れた事情を考慮すると、いずれも右法律関係に関連のある事項を記載した文書に該当するというべきであるが、相手方の意見によれば、相手方は当事者の同意があることを前提として、これを任意提出するというのであるから、右各貸付金元帳については、いまだ文書提出命令を発する必要性があるということはできない(現に、相手方は、申立人が申立人及びBの貸付金元帳(平成二年一月一日から同年七月三一日まで)の任意提出に同意したことから、これをすみやかに任意提出する旨表明しているところである。)。

3  文書三について

(一)  民事訴訟法二二〇条三号後段所定の法律関係文書とは、挙証者と相手方との間の法律関係それ自体を記載した文書及びその法律関係に関連のある事項を記載した文書を指すが、文書の所持者又は作成者が専ら自己使用の目的で作成した文書はこれに当たらないと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、文書三には相手方から申立人に対する融資に関連した事項が記載されていると推察されるものの、右文書は相手方が申立人に対し融資を行う際の意思決定過程において専らその意思決定を円滑に行うために作成された文書であって、相手方内部の文書であり、かつ法令によって作成を義務づけられているものではないと認められる。したがって、文書三は相手方が専ら自己使用の目的で作成した文書であって、法律関係文書には該当しないというべきである。

申立人は、ある文書が法律関係文書に含まれるか否かの判断に際しては、当該文書の内容を訴訟の場に顕出するか否かの自由を所持者のみに与えるのが公平か否かを総合的に考慮すべきであり、また、ある文書につき訴訟における重要性及び立証手段の不代替性が認められる場合には、文書提出義務が認められるべきであって、文書三は右各観点から法律関係文書として提出義務が認められると主張する。

しかし、申立人が主張する右の各事情は文書提出命令の必要性の判断に際し考慮すべき事情であって、これらの事情により法律関係文書に該当するか否かを決すべきではない。右主張は採用することができない。

(二)  民事訴訟法二二〇条四号は、同号イ、ロ及びハに列挙されたもののいずれにも該当しない文書の所持者は当該文書の提出義務を負う旨規定するが、同号ハは「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」を右提出義務の対象文書から除外している。そして、文書三が専ら文書の所持者の利用に供するための文書に該当することは前記のとおりであるから、相手方は同号に基づいて文書三の提出義務を負うものではない。

申立人は、同号ハに該当する文書の範囲は、当該文書の提出によるプライバシー、企業秘密等の侵害による不利益が右文書提出による利益に優越する場合等極めて限定的に解すべきであると主張するが、右見解は同号ハの文書の範囲を必要以上に狭く解するものであって、これを採用することはできない。

また、申立人は、何らかの形で所持者以外の第三者に対する開示が予定されている文書は同号ハの文書に該当しないと解すべきであり、右観点からすると文書三は同号ハの文書に該当しないと主張する。しかし、(一)で検討したように、文書三は相手方内部において申立人に対し融資をするか否かの意思決定を円滑に行うために作成された文書であり、かかる作成目的に照らせば、文書三は本来的に第三者に対する開示を予定している文書とはいえない。

(三)  したがって、文書三に関する本件申立ても理由がない。

4  以上の認定及び判断の結果によると、本件申立ては本件各文書のいずれについても理由がないから、これを却下することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 渡邉等 裁判官 中山孝雄 水野正則)

<以下省略>

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